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ATLAS Upgradeに向けた半導体検出器開発
lhc-schedule
この表は今後20年間に渡るLHCの運転計画をまとめたものです(2013年12月のLHCC委員会のopenセッションでの発表資料から とりました)。 現在(2013年)はLS1(Long shutdown1)と呼ばれる長期休止期間にあたります。今後同様のLSが2018年、及び2013年に予定 されています。LS2中にはLHCの前段加速器の増強が行われ、LS3にはLHC主加速器の増強、ビーム衝突点における強度を決める収束 マグネットの強化などが予定されていて、LS3後の運転では現行のLHCの5-10倍の瞬間輝度が期待されています(LS3後の10年間の 運転をHL-LHCと呼びます)。

アトラス実験ではそのLHCの増強に伴いより高性能の検出器が必要になります、さらにLS3の時点で累積放射線量が現在 使用している内部飛跡検出器の耐放射線限界を超えるため、LS3において内部飛跡検出器(PIXEL,SCT,TRT)検出器の 総取り替えを行います(そして全てをシリコン検出器に置き換えます)。

LS3後の検出器の測定環境は荷電粒子密度が一桁高く(一回の陽子陽子バンチ衝突の中に含まれる同時衝突の数は ~20から~200に跳ね上がります)、また累積放射線量が高いために(検出器の中心にあるため、毎年取り替えるようなことが できません)、現行で使用されているものよりも、より位置分解能 が高く、より耐放射線性が高いものが求められています。

陣内研では三つのUpgrade活動を展開しています。 IBL
IBL(Insertable B-Layer)は現在のLS1中に新たに設置される内部飛跡検出器層のことです。図にあるように、2012年までの 運転で使われていた最内層はB-Layerと呼ばれるもので、ビーム軸から5cm程度の距離にあるものでした。今回新たに、4層目の シリコンピクセル検出器を半径3.33cmの位置、つまり一番衝突点に近い位置に設置することにより、(1)検出粒子飛跡のImpact Parameter (飛跡と衝突点との距離を表す指標)の測定精度の向上、(2)全ての物理解析に影響を及ぼすb-tag(ジェットがb-quark 起源である確率を計算する)の性能向上が期待されています。IBLに導入される新センサーは放射線耐性が高く、LS1中に 設置された後、2022年程度まで問題なく動作することが予想されています。 陣内研ではこのIBLのモジュール試験に参加していて、修士課程学生がイタリアジェノバ大での試験で活躍しています。 今後2014年のアトラス検出器内設置、そして宇宙線等を利用した本番と同じ環境での試験などにも貢献していく予定です。
IBL setup
2015年から再開する物理測定ではこのIBLを導入して性能が向上した飛跡検出がアトラスの解析で一般的に用いられる ことになります。陣内研ではいち早くこの性能評価を物理解析に取り入れていこうと考えています。

beamtest
PPS(Planar Pixel Sensor)は平面状の典型的な形状をしたシリコンPixelSensorです。ATLASグループ内で複数の機関が 提携してPPSコラボレーションという組織をつくり、開発研究の共通部分(評価方法=ビームテスト施設、放射能照射試験、評価方法 等)を 共同にまかない、センサーの開発を急ピッチで進めています。

陣内研では高エネルギー加速器研究機構(KEK)のセンサー開発グループと協力して、 従来のものよりも高精細化させ、放射線耐性を向上させた日本製(浜松ホトニクス社製)新型センサーの 開発をしています。陣内研では、加速器を用いたビーム試験を用いてこれらのセンサーを評価することを担当しています。 将来のATLASの運用時と同程度の放射線量を与えた後、どの程度、測定性能が変化するのかを 評価するのが主な目的です。
ビームテストはCERNのSPS(Super Proton Synchrotron)の荷電パイオンビームや ハンブルグにあるドイツ電子シンクロトロン施設(DESY)の電子ビームを用いています(ビーム試験のセットアップ 写真参照)。これらの 施設でのテストは年に2度程度の頻度で行います。収集したデータを持ち帰り東京で解析を行います。高エネルギーの 荷電粒子を、本番の実験の衝突で発生する粒子に見立てて、それらの粒子を高い検出効率で検出することが要求されています。 放射線耐性を調べるために、放射線照射を主に東北大のCYRIC施設を用いて行います。 この放射線照射は年数回あるビームテストの間に行います。照射前後の性能の変化をみます。
pixel result
図のように、荷電粒子を入射した際にPixel検出器が100%近い効率で検出できているかどうかを検証します。 トラック(荷電粒子の飛跡)の位置を数μmの分解能で決定し、Pixel一つ分の中の構造がどのように 検出効率・測定量に影響しているかを詳細に見ていきます。これらの性能評価から得られた、結果をコラボレーション内で 比較し、競争します。最終的に、我々の日本製センサーがアトラス実験アップグレードで 採用されることを目指しています。
LS3における内部飛跡検出器の総取り替えにおいて、新規に設置するシリコン検出器は主に、円筒状形状を していて、何層にもまたがります(設計案は幾つかありますが、まだ確定していません)。外周に行くに従い 有効面積が広がるため、通過粒子密度、放射線損傷ともに少なくなります。この中間・外側層にはマイクロ・ストリップ型 (1次元読み出し)のシリコン検出器を配置します。現在2つのデザインが提唱されていますが、陣内研では 日本グループが押し進めているSuperModuleに取り組んでいます。
supermodule
1つのモジュールは96mmx96mmの面積をカバーします(図のsilicon micro-strip sensorと 書かれている領域)。
supermodule8
ローカルサポートのプロトタイプ上に8つのモジュールが設置され、現在実験室での試験が繰り返されています。 本番用では12個のモジュールを配置したものが設計されています。

このような両面読み出し型のセンサーをサポートに精密にネジ止めするデザインをSuper Module案 と呼んでいます。それぞれのモジュールは単体で最小の検出器ユニットして機能し、発生した熱は サポートに設置されたクーリングパイプを使って拡散されます。

陣内研では、このスーパーモジュールの読み出しに取り組んでいます。特に日本製の汎用読み出し基盤モジュールSEABAS を用いた全モジュールの操作、測定をデモンストレーションすることが当面の目標です。 プロトタイプはCERNにあるので、そちらでの研究・作業が主になります。
陣内研究室 (TokyoTech)