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小型実験装置を使った素粒子実験
放射線検出器は素粒子の最先端実験のために長年に渡り研究・開発されてきました。また、 それに伴い検出器信号の読み出し、読み出した信号の処理回路についても大規模なものになりました。 毎回各実験で巨大な読み出し装置を作るのは大変です。そこで、モジュール化した電子回路を組み合わせて、 複雑なデータ収集を効率よく行うという方針をとりました。このように最先端の素粒子高エネルギー実験のために 開発された検出器・信号処理回路(今日では比較的安価になったもの)を利用すると大学の 実験室内でも、小規模ではありますが面白い素粒子実験を組み上げる ことができます。

陣内研ではポジトロニウムと呼ばれる電子と陽電子の束縛状態である原子状の粒子を用いた 基礎物理実験を行っています。ポジトロニウムには電子・陽電子の間のスピンの関係に応じて、 偶数のガンマ線に崩壊するパラポジトロニウム(p-Ps)と3本以上の奇数本のガンマ線に崩壊する オルソポジトロニウム(o-Ps)があります。特にo-Psは比較的寿命が長く(~142ナノ秒) 我々が使用する測定機器で扱うことができます。そして3本のγ線崩壊という特徴もあるため、 素粒子小実験にとって、とても使い勝手のよい測定対象となります。また電子とその反粒子 である陽電子というレプトンのみで構成される系なので、強い相互作用の影響をうけず、 量子電磁力学の精密検証などに用いることもできます。

o-Ps drawing
ポジトロニウムを使った測定には幾つものテーマがありますが、陣内研では現在、レプトンセクター (電子・ニュートリノのグループ)におけるCPT対称性の破れの探索を行っています。ご存知のように、 現在の物理ではCPT定理により、CPT対称性が保存することが保証されています。PやCPの非保存は これまでに見つかっていますが、CPT対称性非保存を示すような実験はこれまでありません。 (弦理論など標準模型を超える物理ではCPTを破ることも示唆されています)。 具体的にはポジトロニウムのスピンに偏り(偏極)を持たせながら、3本のガンマ線の放出する方向に 偏りがないかどうかを検証します(図の中でk1,k2,k3は3本のガンマ線を表しています。エネルギーの大きい順に k1,k2,k3と番号付けします)。
CPT violation
この非対称性をみるために、ガンマ線のエネルギーと放出方向性を測定するセットアップを 用いて、k1からみたときのk2の出る向きが左右非対称なのか、対象なのかを数多くの事象を 収集して検討します。検出器の非対称性や測定感度などの影響を極力抑えるために、検出器を 180度反転させた状態でも測定できるようにします(写真のセットアップを用います)。
CPT violation
この実験は学部4年生の卒業論文実験のテーマとして、毎年、少しずつセットアップをアップグレード していまして、現在は測定の系統誤差を抑えるためのアップグレードに取り組んでいます。 物理測定の原理の理解、セットアップの工夫、実際の測定、シミュレーションでの評価、そして データ解析、と物理実験の醍醐味が凝縮しているテーマですので、取り組んでいる卒論生は 非常に楽しんでいます。
陣内研究室 (TokyoTech)